話し方の手本は、ビートたけしから中田敦彦へ  ~なぜ話し方はこんなにも早口になったのか~

スピーチ

お笑い界のレジェンド、ビートたけしさん。今でも沢山のテレビ出演し、そのコメントは度々ネットニュースでも取り上げられています。

ビートたけしさんの話し方は、ゆっくりで間もいっぱい取った話し方です。一方で、いま人気の人たちの話し方は、とっても早口です。おじさんおばさんでは、聞き取れないくらいのスピードです。

なぜこんなに早い話し方が主流になったのでしょうか。そして、ビートたけしさんのように、ゆっくり間を取った話し方をする人は、なぜいないのでしょうか? 

ビートたけしさんと、人気YouTube中田敦彦さん、時事漫才を早口でしゃべる村本大輔さんの話し方から考察してみました!

ビートたけしさんの話し方の特徴

お笑い界のレジェンド、ビートたけしさん。お笑いだけでなく、映画監督として世界的な評価を受ける偉人です。

ビートたけしさんは、ゆったりと間を空けた話し方ですが、ビートたけしさんのような話し方の場合、聞き手にはどのような効果があるのでしょうか。

まず、ゆっくりな話し方の良い点です。

ゆっくりな話し方は、言葉の一つ一つを丁寧に話していますので、言葉に重みを感じます

聞き手は「そうか、なるほど」と、自分の内側で言葉を反芻することができるので、言われたことへの説得力もあります。

今でも、講演会やプレゼンでゆっくり話す人が多いです。スティーブ・ジョブズも、もちろんゆっくりでしたし、今のアップルCEOティム・クック、テスラのイーロンマスクなども、ステージでゆっくり話します。言葉の重みと説得力を重視しているためでしょう。

ですが、ゆっくりな話し方には弱点もあります.

ゆっくり話すと、どうしても大物感が出て、親しみにくくなります。スティーブ・ジョブズや、ティム・クック、イーロン・マスクに、さかなクンのような早口でライトな語り口からもたらされる親近感はありません。ギョギョ!

ゆっくりな話し方は使われなくなってきた

言葉の重みと説得力が出るゆっくりな話し方は、ビートたけしさんのような殿にはピッタリです。

ビートたけしさんのように、ゆっくりな話し方をする人を他に挙げると、石原裕次郎さん、いかりや長介さん、若くても松本人志さんです。探しても20代や30代では見当たらず、上に挙げた方の半分は、お亡くなりになっています。

では、なぜビートたけしさんのような、ゆっくりと間を取った話し方をする人は、いなくなったのでしょうか? 

先に挙げた石原裕次郎さんらは、ボスポジションの方々です。ボスを中心に階層があって、一つの集団を組織しています。清水の次郎長一家、みたいな任侠の世界です。たけし軍団や石原軍団も言ってしまえば、任侠の次郎長一家と同じです。つまり、家父長制です。

昭和の日本企業は、漏れなくこの家父長制組織だったのですが、近年この家父長制の人気が衰えてきています。サザエさんの波平さんから、マスオさん的な友達のようなお父さん、そして、今や家族の家庭を描いた人気アニメは、埼玉県春日部市を舞台にしたクレヨンしんちゃん以降、出てきていません。統計的に見ても、一人暮らし世帯が最も多くなり、家族の団欒そのものが失われつつあるのかもしれません。

また、会社組織でも、転職が当たり前になり、ボスらしく威張ることが難しくなってきているように思います。

このような、家父長制が失われた社会では、当然ボスらしい振る舞いは空虚なものになります。そこで、新しい話し方が必要になります。

中田敦彦さんや村本大輔さんの話し方を考察しながら、考えを深めていきたいと思います。

中田敦彦さんや村本大輔さんの話し方の特徴

二人の話し方は、軽快で、息もつかせぬテンポとリズムで私たちを楽しませてくれます。なんだか音楽に乗ってるようで、自然と楽しくなっていき、親しみを感じます。

2020年7月まで、深夜に「フリースタイルダンジョン」という、ラップバトルの番組が放送されていましたが、中田敦彦さんや村本大輔さんの話し方は、フリースタイルダンジョンに出てきたラッパーたちと同じように、調子の良さや軽快さが、心地よく体に残ります。

ラップバトルのように語りかけることは、若い人たちに訴えかけるうえで、一番ベストな方法かもしれません

では逆に、中田敦彦さんや村本大輔さんのような話し方をする人が、昔は居なかったのでしょうか?

そんなことは無くて、昔でも、調子よく軽快に話す人は居ました。

例えば、明石家さんまさんがそうですし、島田紳介さん、オール阪神巨人さんなど、枚挙にいとまがありません。

男はつらいよに主人公、寅さんの売り口上は、リズムに乗った早口のいい例です。

まるで催眠術にでもかけるようなリズムと音です。あまりにも調子よ過ぎて、聞く人によっては、胡散臭く、煙に巻かれてるように感じるかもしれません。

昔のインチキなセールスマンなんかは、だいたい早口で一杯しゃべって、相手を混乱させて何か分からないうちに買わせていました。ですから、早口の喋りを聞くと、インチキセールスマンや、場合によっては詐欺師を思い浮かべるかもしれません。

もしくは、軽薄で重みがなく、頼り甲斐のない人物に映るかもしれません。

早い話し方が増えたのはなぜ?

軽くリズムのいい話し方は、インチキ臭く聞こえることもあるはずなのに、ドンドン増えています。

YouTuberはみんなそうです。ヒカキンさんをはじめ、人気YouTuberでゆっくりと話している方を、見たことがありません。

なぜみんな、早いリズムの話し方をするのでしょうか?。

幾つか考えられるポイントを、挙げていきたいと思います。

メディアが変わったので、話し方も変わった

情報を伝えるメディアが、時代と共に大きく変わりました

昭和の時代では、映画、ラジオ、そしてテレビです。

ラジオは音声だけなので、ゆっくり分かりやすい話し方が好まれます。今でも、NHKのラジオ深夜便などでは、非常にゆっくりとした話し方でアナウンサーの方が語りかけてくれます。

テレビは、ラジオより映像の熱狂に合わせて話すことが求めれらるため、より早口な話し方も求められました。古舘伊知郎さんのプロレス中継は、まさにその黄金期でしょう。無意味の戯れの究極の芸です。

しかし今思えば、メディアがテレビくらいしかなかった時代の話し方と、インターネット、SNS、そしてYouTubeやTik tok、Amazon Prime やNetflixなど、見尽くせないほどのメディアがある中で求められる話し方は当然同じであるはずがありません。メディアは無数に氾濫しています。

そして、メディアごとにも求められる話し方は変わります。

YouTubeやTik Tokのように、時間の制限があるメディアでは、情報を丁寧に伝えることよりも、情報を詰め込むこと、興味を惹きつけることが求められます。

一瞬でもつまらないと、クリックされてどこか別の人の動画を見られてしまいます。一瞬の隙も作らないような話し方を目指さなければなりません。

結果、軽快でリズムの速い話し方にならざるを得ないのです。

参考までに、昔のアナウンサーの方が原稿を読んでいる動画と、YouTuberのヒカルさんが話している動画を貼っておきます

1963年11月23日 鈴木史郎アナウンサーの原稿読み
ヒカルさんとレベセン地球DJ社長の会話

無名の人物が、いきなりゆっくりとした話し方で、人気を得るのは絶望的に難しいはずです。

重たい内容を軽くする

2つ目は、重たい内容を軽くするため、です。

今やYouTuberとして大人気の中田敦彦さん。

2020年12月現在で、中田敦彦のYouTube大学のチャンネル登録者数は314万人と、芸能人YouTubeで一番のチャンネル登録者数となっています。

YouTube大学の内容は様々ですが、思想や哲学なんかも解説されています。

思想や哲学を学ぼうとしたら、すさまじく分厚く、難解な言葉が並ぶ本と対峙する印象があるのですが、中田敦彦さんは、難しく取っ付きにくい内容を軽快に、一人芝居や笑いを交えて面白く語ることで、重い内容を軽くしています

ウーマンラッシュアワーの村本大輔さんは、在日朝鮮人の人種差別や原発問題、沖縄の米軍基地問題、安倍総理の桜を見る会疑惑などの時事問題を、漫才のネタにしています

早口で、何を言ってるか分からないと言われている方もいらっしゃいますが、村本大輔さんの話し方も、中田敦彦さんと同じで、重たい内容を軽くする話し方です。

実際に、村本大輔さんが舞台でしゃべっているセリフを下に書きだしましたので、ゆっくりと朗読してみてください。とんでもなく重く、大変な問題だと感じます

2019年2月の24日、沖縄でね、県民投票ってのがありましてね、沖縄には日本にある米軍基地の70%があるんですね。

それに対して米軍の新しい基地が沖縄の辺野古に出来る、それに対して沖縄県民が、基地の建設に賛成か反対か、県民投票を行ったら、それに対して沖縄県民は70%以上が反対したんです。それに対して安倍政権は『結果を真摯に受け止めます』といって、工事を続行したんです。

真摯に受け止めるってことは、一旦真面目に考えるってこと。真摯に受け止めるといって工事を続けるのは、真摯に考えてないってことです。

2019年12月8日放送 THE MANZAI2019 より

重いですね。聞きたくないですね。

ですが重たく大変な問題を、村本大輔さんがマシンガンのようにまくしたて、オチまで付けて笑いにしてくれるので、在日朝鮮人のことも、原発の事も、沖縄米軍基地のことや、桜を見る会の事も、興味を持って聞けるのです。

中田敦彦さんや村本大輔さんが行っているのは、欧米のスタンドアップコメディに近いと思います

スタンドアップコメディとは、お客さんの前にマイク一本だけ持って立ち、面白い話をしてお客さんを笑わせる文化ですが、内容は、人種差別や貧困、政治腐敗といった、社会風刺を織り交ぜることが多々あります。

社会問題、社会風刺を、受け取り手がそのまま咀嚼すると、分かりにくく、重たく感じます。ですから、重たい話を軽量化するために、笑いに混ぜることが、欧米の笑いの原理です。彼らのユーモアを交えた話し方には、一定のリズムと軽快さがあります。

日本では、真剣に議論することは、空気が読めない奴がやることでした。重い話を笑いに変える始めているのは、もうそんなことも言っていられないくらい、社会は厳しくなってきているからかもしれません。

ビートたけしさんのような、ゆっくりな話し方はもう使えないのか?

YouTuberのように、軽く早い話し方の方が、ビートたけしさんのように重くゆっくりとした話し方よりも人気がある理由について、これまで考えてきました。

どちらの話し方でも利点があるのですが、ビートたけしさんのようなゆっくりな話し方をする人は、メディアの多チャンネル化、意味の軽量化が求められる時代では少し不利になるかもしれません。

今後、中田敦彦さんや村本大輔さんのような早い話し方をする人が増えるのは、時代の流れを考えるより仕方ないことかもしれません。

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