4人の天才のツカミ ー 神田伯山・北野武・上野千鶴子・ティムクックに学ぶ

シナリオライティング

面白いスピーチとそうではないスピーチは、果たして何が違うのでしょうか?

「スピーチを面白くしたい」と思って、話し方を変えてみたり、構成を練り直したり、オチを付けてみたり、色々と試してみても、なんか面白くならない。困ったぞ。何が足りないのだろう……

悩んでいたら、今をときめく人気講談師神田伯山さんが、講談は最初の「ツカミ」が大事、と話しているのを耳にしました。

最初が大事?そうなの?よし、調べてみよう!

スピーチの始め方って、けっこう困る

スピーチのツカミを研究してみた①神田伯山さんの場合  ー 共感のツカミ

「話を聞くかどうか、最初の10秒で判断している」

神田伯山さんが雑誌の取材でこのように答えていました。寄席では、いろんな芸人が芸を披露します。伯山さんの講談も、その一つです。ですから、伯山さん以外の芸人を目当てに来ている人も少なくありません。そんな興味を持っていない人に、話を聞いてもらう、そのためには最初の10秒が大切だというのです。

寄席は演芸場で見られますよ。こちらは池袋の演芸場。

登壇してすぐの最初の一言で、お客様の心を鷲掴みにしなければなりません。講談や落語では、このことを「ツカミ」と言います。

では、伯山さんは、どのようなツカミを行っているのでしょうか?演芸グランドスラム(2018年4月放送 フジテレビ)という番組に出たときのツカミをご紹介したいと思います。

この番組は、漫才やコントをする芸人が多数出演するバラエティ特番でした。古典芸能の講談を行う伯山さんには、アウェーとも言える状況です。

この舞台で伯山さんは、

「あの~、座った瞬間に分かったんですけれども、お前誰だ!?の空気半端ないですね」

「あの、やりづれぇわ!俺と志らく師匠の浮きっぷり半端ないですよ」

このように話して、講談を知らない若いお客さんの気持ちを代弁して、笑いを取りました。会場の反応はまずまずだったと思います。

なぜ、この言葉でつかむことができたのでしょうか?

スピーチでもよく見られるのですが、相手の気持ちを代弁することは、「共感の笑い」を引き起こします。

このジャブを、伯山さんは、強烈なストレートに昇華して、「浮きっぷり半端ないですよ」としたわけです。

寒いですね。今日は、天気がグズグズですね。など、スピーチの序盤でこのような天候の話をすることがよくありますが、これは聞き手の感情を代弁して共感を勝ち取るためのジャブのような言葉です。

伯山さんのツカミへの本気度が、よく伝わってきます。

スピーチのツカミを研究してみた②~北野武さんの天皇陛下即位30周年祝辞~

北野武さんといえば、誰もが知っている大物コメディアンでありながら、世界に名をとどろかす映画監督です。

そんなたけしさんが天皇陛下即位30周年式典という、おごそかで緊張感のある会場で、どのように祝辞を述べるのか、誰もが期待をしていました。

はたして、場の空気にしたがい真面目に話すのか、笑いを取りに行くのだろうかー。

司会者から紹介され席を立ったたけしさんは、来賓に一礼した後、演台の後ろに掲げてある日の丸に一礼します。

マナー通りの行動です。

郷に入れば郷に従えと申します。やっぱり形式どおり真面目に話をするのか……

と思いきや、ここからが違いました。

演台に立った時に、礼をし過ぎてマイクにおでこをボコッとぶつけました。

ベタで分かりやすいボケに笑いがおき、場の空気が一気に緩みます。

さらにたけしさんは、なに食わぬ顔で祝辞原稿を手に取り、

「えー、祝辞。衆議院議員……あ、こっちじゃない」

と先に祝辞を述べた安倍総理が置いていった原稿を読みかけ、また笑いがおきます。

こっちじゃない、と自分の原稿を広げたあと、

「ほには、へと……あ、こっち……」

と原稿を逆さまに読んでいたことに気がついたふりをして、原稿をひっくり返します。そこで、また笑いがおきます。

そして、「お祝いの言葉」とようやく読み上げ始めました。

もう会場は「祝辞の中でも何かあるな」、というたけしさんへの期待しかありません。素晴らしいツカミです。

ともすれば、笑いを取ることを不謹慎と批判されかねない会場で、恐れを全くを感じさず、流れるような振る舞いで笑いを取り、聞き手の心をツカミました。

コメディアンや映画監督として、これまで積み上げたモノがあるたけしさんだからからこそ出来た、ツカミではないでしょうか。

とはいえ、人を笑わせるのは難しい。。

スピーチのツカミを研究してみた③~上野千鶴子さんの2019年東大入学式祝辞~

続いては、世間で賛否両論となった上野千鶴子さんの2019年東大入学式祝辞です。

祝辞はこのように始まります。

「みなさま、ご入学おめでとうございます。あなたたちは激烈な競争を勝ち抜いて、この場に来ることができました。その選抜試験が公正なものであると疑っておられないと思います。もし不公正であれば怒りが湧くでしょう」

もう、なんかすごい引き込まれます。「激烈な競争」という言葉は、東大入学という喜びを感じた学生たちの自尊心を刺激しています。そして、「公正でなかったとしたら、怒りがわくだろ?」と煽り立てています。

そして、続きが

「が、しかし、昨年、東京医科大不正入試問題が発覚し、女子学生と浪人生に差別があることが分かりました」

と、先日発覚した東京医科大不正入試問題を持ち出します。勝ち抜いたと信じていた激烈な競争が、仕組まれたものであると言ってしまう訳です。

持ち上げといて落とす。

「なんでそんなこと今言うのよ!?」

と、心を揺り動かしてつかんできます。

このスピーチに限らず、上野千鶴子さんのスピーチは社会への怒りを感じさせる内容が多いように思いますが、このスピーチにも強い怒りを感じました。

祝辞は、「不正入試のように矛盾してやるせない、割りきれないような差別、区別が世の中には溢れていて、それと戦っていかなければならない」

そんな強いメッセージを感じさせる内容です。激しい憤りで聞き手の心を動かす、素晴らしいツカミではないでしょうか。

スピーチのツカミを研究してみた④~ティム・クックの2015年ジョージワシントン大学卒業式祝辞~

最後にappleのCEO、ティム・クックのスピーチです。ティム・クックが2015年ジョージワシントン大学でスピーチした祝辞でのツカミを見てみましょう。

祝辞の冒頭はゲストスピーカーに呼んでもらえた感謝を淡々とのべた後に、卒業生達にいきなり大きな声で「おめでとう!」と叫んだあと、親指を立てた拳を突き上げました。

これこれ。欧米の方じゃないと似合わない……

ここで、大きな歓声がおこります。そして、こう続けました。

「マナーモードについてのアナウンスをいたします。iPhoneをお持ちの方は、サイレントモードに設定してください」

と、フォーマルな会場で必ず案内されるアナウンスを始めます。会場は笑いが起き、和やかな雰囲気になりました。

さらにもう一押し。

「iPhoneでない場合は、センター通路に集めてください。appleのリサイクルに回します」

アメリカらしく指笛がなり、場の雰囲気は一気にティム・クックのモノになりました。

淡々とした話の後に、ギアが切り替わったような「おめでとう」は、インパクト十分です。appleのCEOにしか話せないネタでツカミました。

ティム・クックの話し方は、メリハリと抑揚ハッキリしていて、理解してもらおう、分かってもらおうと言う雰囲気を感じる話し方です。

appleのCEOであるティム・クックだから使えるツカミではないかと思います。

まとめ

この記事では4つのツカミを紹介しました。神田伯山さんは、共感からの笑いによるツカミ、たけしさんとティムクックは、マナーに則ったフリをして裏切った笑いによるツカミになります。

そして、上野千鶴子さんは怒りのツカミになります。

高度な話術ですが、最初のツカミでスピーチは格段に面白く変わります。ぜひ次のスピーチでは、ツカミを意識してみましょう!

コメント

  1. […] 最初の「ツカミ」についてhttps://www.communis.jp/kotoba3/archives/1519 […]

  2. […] あるスピーチで涙が止まらなくなった理由四六時中、仕事ばかりしていた仕事人間でサイボーグのように冷徹だった職場先輩のMさんが結婚が決まり、お嫁さんの存在のお陰で人間の温かな心を取り戻すことができたという感動スピーチ。このスピーチを通して、感動を起こすスピーチのエピソードの仕組み〈ドラマツルギー〉について分析し説明する。www.communis.jp2019.09.25 4人の天才のツカミ ー 神田伯山(松之丞)・北野武・上野千鶴子・ティムク… […]

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