野生肉ジビエを美味しく食べる究極の方法

ノンフィクション

精進湖の猟師が教えてくれた秘密~

高に美味しいジビエを食べるために、どんな方法があるかご存知でしょうか?
しかも、調理からではなく、狩猟から最高に美味しくいただくための方法を、実際のマタギさんにお話を伺ってまとめてみました。

最前線のマタギ 〜精進湖のオヤジさん〜

「先生、車で通われるんだったら、冬は必ずスタッドレスタイヤに換えてくださいね。
 雪が降らなくてもいたるところで凍って、ノーマルだとホント危ないから。」
甲府に赴任したての三年半前、春なのにいきなり言われた冬への忠告が、いきなり蘇ってきます。

 12月初旬、甲府から精進湖畔への山坂道、「精進湖ブルーライン」を走行中です。夏であれば、ハンドルを右に左にと気持ちよくワインディング走行を楽しむところですが、紅葉は終わりを迎え、たくさんの落ち葉が行く手にあります。そして、落ち葉の轍になっています。ずっと山の日陰になっているところは既に凍っていそうで、スタッドレスタイヤでも、落ち葉の上に乗って滑らないように、さらにさらに慎重なハンドル操作とアクセルワークを心掛け、慎重にワインディングカーブを抜けていきます。

 最後のトンネルを抜けて、緊張を強いられたドライブも終わり。ようやく精進湖湖畔の目的の施設に着きました。

精進湖から望む富士山

 「おっ、来たか。道凍ってなかったか?」と迎えてくれたのは、いかにもマタギ、猟師といった風貌のオヤジさんです。これから丁度作業に入るところで、早速、施設内に案内してもらいました。
 まず目に入るのは、大人がそのまま歩いては入れる冷蔵庫、低温室。その中には、きれいに皮と内臓が剥がされた肉塊がいくつもぶら下がっています。オヤジさんがそこに入っていくと、何故か、映画「ロッキー」で、イタリアの種馬と呼ばれる主人公(シルヴェスター・スタローン)が、天井からぶら下がっている大きな肉塊をサンドバックがわりに、白い息を吐きながらトレーニングしているあのシーンが思い出されました。
 精進湖のオヤジさんは、早速、きれいに皮をはがされ内臓も処理された肉塊を担ぎ出して、解体の作業に入ります。ボクは、野生の鹿肉の解体の様子を見に来たのです。

 今、首都圏で名をあげたシェフ達から、山梨の食材に関して熱い視線が送られています。そう、ジビエと呼ばれる野生動物のお肉に、です。

 ジビエとは、フランス語で、狩猟により食材として捕獲された野生の鳥獣のことです。スーパーマーケットや食肉店に流通し消費者が購入できる牛肉・豚肉・鶏肉などは、第一次産業である畜産業に立脚しています。ですので、普段私達が口にすることの出来る肉類と比較すると、狩猟によるジビエ肉の最大の特徴は、人が関与していない自然そのもののお肉ということになります。

三種食べ比べ、本当は美味しいジビエ肉

 精進湖畔のジビエ専門加工施設への訪問は、甲府市内のジビエ料理のお店で、鹿肉を実際にいただいいて、いたく感動したことが始まりでした。y

  そのお店では、産地の異なる三種類の鹿肉をいただきました。伊豆は天城山中、山梨県鳴沢村あたりの富士山山麓、そして山梨県北杜市明野産です。伊豆から明野に向かって段々と北に位置していますので、それぞれの地域で自生している木々の種類が大きく違ってきます。また、同じ種類の木でも、その土地の高度や地質や水質の違いから、木の芽や木の実の味は異なってくるでしょう。そうすると、食べたものを反映して、鹿のお肉の質・風味は当然違ってくるのです。

 実際、三種類の鹿肉はそれぞれに特徴的な噛み応えと味わいでした。鹿肉は脂身が極めて少ない赤身肉なので、よく噛みしめると、産地による肉質の違いを歴然と感じることが出来ました。鹿肉線維のほぐれ具合や細かな繊維質の食感の違いが、舌の上だけでなく口腔内粘膜の上(ありていに言えばほっぺの裏側や上顎など口の中全体)へのあたりの違いとして、じっくりと味わえました。
 ボクは、最も軟らかく少ないながらも肉塊から出てくる肉汁を感じることが出来た富士山山麓産が好みでしたが、ツレはしっかりと噛み応えがあった明野産が、シカ肉の野性味や旨味を感じられて一番美味しい、一番好みとのことでした。

 この時は、このような産地の違いを味わうために、塩コショウのみ、そして軽くブランデーでフランベしただけのシンプルな調理方法でした。いずれの産地の鹿肉も臭みを感じることなく、実に美味しくいただきました。

 食事の後、ジビエ肉、特に鹿肉は一般に「臭い、硬い」というイメージが昔からついて回っていると聞いているけど、ボクは本当に美味しくいただけたことを、シェフに正直に伝えました。すると、シェフ、野生肉を美味しく提供するために、山梨県では産官学でしっかりとした取組を行っていることを教えてくれました。そして、「次のお休みの日に、鹿肉を仕入れに精進湖に行きますが、ご一緒しませんか?」とお誘いいただきました。

これまでのジビエ、これからのジビエ

 ジビエ、コトバとしてもこの日本でもようやく市民権を得て、広く浸透しています。しかしながら、かつては捕獲した鳥獣をキチンと衛生的に処理していなかったから、評価が低かったらしいのです。血抜きの処理などが不十分のまま加熱調理してしまっていて、「臭い、硬い」肉とのレッテルがついてしまったのが大方の真相のようです。

 今山梨県では、近代的なジビエ専門の加工施設を4ヶ所も設置して、美味しく衛生的なジビエ食肉の供給を図るようになりました。ボクが食べ比べた三種類の鹿肉は、これらの最新施設で捕獲後すぐに処理されたもので、シンプルに焼くだけでそれぞれの産地の特徴を美味しく味わうことが出来た訳ですね。

ジビエ肉を美味しく安全に届けるために

「鹿肉のうまさは、捕獲した後の処理が大きく影響するよ。ワナも鉄砲でも捕まえた鹿は、まず皮を剥いで、動脈を見っけて血抜きして、内臓を全部取る。そして、肉塊を丁寧にエタノール消毒する。意外に雑菌がついているんで、認証を取って流通させるには消毒をキチンとしなければいけない」

 さて、ボクの目の前では、オヤジさんが切れ味バツグンの包丁を巧みに操り、ロッキーのサンドバックのような鹿の肉塊を部位毎にバラしています。背ロース、アバラ肉、モモ、ランプなどそれぞれの部位は、それぞれに大きさをそろえて、真空パックされていきます。そして、金属探知なのでしょうか検査装置にかけて異物が混じっていないことが確認された真空パック詰め鹿肉のみ、「やまなしジビエ」の安全安心の認証をもらえるそうです。

 精進湖のオヤジさんは言います。

「ここに持ち込まれたときの状況で、流通させていいかどうかオレがちゃんと判断するよ」

「捕獲者、捕獲場所、捕獲方法、鹿の性別、そして大事なのはここに持ち込まれたときの

結腸温度。この温度で鮮度が分かる。こうしてきちんと記録、管理しとかなきゃ、安全安心の認証はもらえない。捕獲者がなんだかんだ言っても、解体してみりゃ、『すべて鹿が教えてくれる!』んだよ。」

 オヤジさんと話して、野生の鹿に結構雑菌が付いていることにびっくりしましたが、安全安心の認証を確かなものにするために、山梨県のジビエ専門加工施設の衛生基準やそこから出荷される鹿肉には、厳しい菌数基準が設けられています。ここの基準はHACCP(ハサップと読む国際的な食の安全基準)に合わされており、食の安全が最高レベルで担保されている訳なんですね。

 オヤジさん曰く、ジビエ肉は結構闇で流通されているとのこと。菌数検査や消毒がキチンとされているかよく分からないので、調理する側や食べる側で気をつけなければなりませんね。

熟成 〜ジビエ肉は一手間かけて、美味しくいただくべし〜

 また、「血抜きまでの鮮度も大事なんだが、美味しく食べるには『肉の熟成』も必要だよ」と、次は鹿肉を美味しく食べる話です。
 オヤジさんが言う「肉の熟成」は、脂肪分が少なく赤身肉である鹿肉の場合、特に味に影響します。鹿肉を低温熟成させることで、時間がたんぱく質をアミノ酸に分解して旨味(うまみ:umami)を作り出す(グルタミン酸・イノシン酸などのアミノ酸こそ旨味成分‼︎)からこそ、美味しいジビエ肉となります。

 低温熟成は一日二日ではなく、じっくりと時間をかけるのがもちろん良いそうです。東京には、精進湖のオヤジさんに熟成する日数を指定して仕入れるシェフもいるそうです。自分の料理に合う熟成具合があるのだとか。「美味しいソースの料理もありだが、捕獲後キチンと処理できたら、ソース無しでもうまい鹿肉は提供できるんだ」と、オヤジさん。

 そこで、熟成にかける時間がなくても美味しく鹿肉をいただくコツを、オヤジさんに教えてもらいました。
① 鹿肉重量の2.5%食塩を表面に満遍なく刷り込み、ラップし、冷蔵庫に2-3時間おく
② 肉塊から出た余分な水分だけふき取り、コショウを肉表面にふって、たっぷりのオリーブオイルで揚げ焼きにする
③ ②をジップロックなどでパック(出来れば真空パック)し、60℃で5-6時間湯煎する
④ さぁ、スライスして、召し上がれ!

 熟成は、肉質も軟らかくする効果がありますからね。でも、熟成があまり進んでいない鹿肉も、オヤジさんに教えてもらった塩を刷り込む方法で、十分柔らかく、そして美味しくいただくこともできます。

 最後に、栄養学的知識を少し。鹿肉は、牛や豚に比べてカロリーは1/3、脂肪分に関してはなんと1/15であり、部位間で成分の違いが栄養学的にはほとんどないという特徴があります。さらに鉄分は他の食肉の1.5倍も含まれ、貧血に悩む女性には是非積極的に食べて欲しい食材といえます。

 さらに、わずかながらの脂肪成分の内訳を見てみると、多価不飽和脂肪酸とよばれるDHA・EPAの含有量が高く、牛や豚などの食肉よりも、サンマやマグロのような赤身のお魚のお肉に近い脂質の組成です。血液ドロドロよりサラサラ成分が多く含まれているってことです。

 でも、これって、鹿肉を食べると誰もが血液がサラサラになるっていうわけではないですよ。ネットショッピングなどの無責任なあおり文句には気をつけましょう!!

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