ライターが考える、皆が使う良い言葉ってなんだろう。

スピーチ上達法

スピーチライターという仕事をしながら、ずっとスピーチを書いたり、色々な原稿を書き続けていると常々思うのは、良い言葉ってなんだろう、皆が使っていて評価している言葉ってなんだろうということとを、嫌でも向き合い続けなきゃいけません。

その中で僕が3つくらい分類している言葉の種類があって、今回はそのお話をしようと思います。

それが癒し・発見・再構築です。

癒やしの言葉

癒しの言葉というのが、僕らにはあります。癒しとは、猫を見たら癒されるじゃないですか。ああいう感じになる言葉なんですけど、例えば物語で言えば、すみっコぐらしとかそうだと思うんですよね。

すみっコぐらしって、部屋の片隅にいる、捨てられるはずのとんかつの端の脂身とか、そういう子達を肯定する言葉の集積が、すみっコぐらしという作品だと思うんです。

主役になりたいという思いも含めて、なかなかなれないじゃないですか。でもそれでいいのだと伝えるのが、再帰性の快感、再帰性の快ですね。

それでいいのだ、です。こういう癒しの言葉は、今も昔も変わらずずっと人気があって、例えばすみっコぐらしの他には、バカボンというギャグマンガやおそ松くん等その他いろいろな作品があります。癒される作品、現状を肯定する作品、あとは異世界転生系と呼ばれるものも、ある意味再帰性の快の作品です、現状を肯定する。

もちろんそれだけじゃないメッセージもあるんですけど、現状を肯定する文脈で作られているもの、これが再帰性の快、それでいいのだという、安心してほっとして慰められるのが、癒しの言葉のいい言葉のパターンです。

発見の言葉

2つ目が発見の言葉です。

知らないことを教えてくれる役立つ言葉と言ってもいいのでしょうか。ビジネス本を開くと大体書いてあるのはノウハウ的な話で、役立つ言葉が書かれています。数学なんかもそうかな。いろいろな役立つ情報、新しい知見、新しい考え方、知らなかったことが知っているとして書かれているもの、たくさんありますよね。

こういう発見の言葉、フロンティアを開拓する言葉、こういうのを見ると僕らは基本的には新しい世界が広がるので非常に興奮します。

再構築の言葉

これもとてもいい言葉の例だと思いますが、癒しの言葉と発見の言葉とは全然異質な、アートの言葉、もしくは再構築の言葉があります。

これはどういう言葉かというと、すごい拒絶反応を示すような不快感を感じる言葉だったりします。

あなたの知っている心地良い、癒される肯定的な世界を否定して、今既にこうなっているので私達は立ち向かわねばならないという感覚を再構築する言葉です。

こういう言葉に触れると、苛立ったり怒りを感じたり、また逆に諦めから悲しみを感じたり、非常に心が揺さぶられる強い体験をします。

いい言葉は、感動したとか泣いたとか、100万人が感動したというのは、どちらかというと癒しの言葉であることが多いんですが、本当に重要なのは、世界が変わっていることを伝える、このような不快感を感じる言葉のほうです。

直ちには受け止めきれないけど、確かにそうなっているということを現実として突きつけてくる言葉です。こういう言葉はかつては占い師のような人たちがシャーマニズムを通して、直接語りかけると嫌われるので、宗教性を帯びて語ることで、政治決断を下す方法論として使われた言葉です。

これは、右を向いていたのをやや左を向くとか、左を向いていたのを右に向き直す、みたいな方針転換を迫る言葉になるわけです。

これは、聞いたがゆえに、もう元の道に戻れないわけです、もし仮にその道が正しいということを心のどこかで感じたとすれば。

しかしそこにはすごい辛い気持ちがあるわけです。今までやってきたことを否定するような言葉なわけですから。

だから、素直には受け止めきれないかもしれません。でも本当に優れた言葉は、おそらくこの方向性を変えるような再構築の言葉です。

リーダーの言葉とは

今、僕がやっている仕事は、ほとんどこの3番目の再構築の言葉を作ることばかりやっています。

日本のトップリーダーの言葉を考える時、彼らは自分の方向性は言語化しているんですが、それが明確に伝わる言葉になっていません。世の中が右を向いているのに、頑固に左だと言う人達が、実は日本のトップリーダーの多くを占めます。そして器用に言語化することは多くの場合できていません。

方向性だけあるんですね。そうすると、右から左に向く論理的根拠とそれを説得する感情のデリバリー、これを同時に成功させなきゃいけないわけです。これをやるのがこの再構築の言葉だと思っています。

そのために癒しの言葉をたくさん並べたり、発見の言葉でたくさんカモフラージュするんですが、根っこにあるのは、今世界は右から左に向かっていっていることを伝えることなんです。

僕、やっていて色々な代理店さんとかから頼まれたり、現場で言葉を作っている人達の指導をしながら強く感じているのは、再構築の言葉を作ることがとにかく皆苦手だということです。

例えば、今までのものとは違う、新しいものを世に送り出すことを言語化しようとすると、この再構築の言葉世界情勢や社会情勢や人間のフィーリングがどのように時流に乗って変化しているのか、ここを言葉にしなきゃいけないことになるんですね。

これが皆できないので、皆がやるのは癒しの言葉を続けたり、発見の言葉を続けたりします。そこにちょっと工夫したレトリックとかを載せたりするんですけど、そういうこと自体はできる人いっぱいいるんです。だから、価値が低い。

しかし、世界がどのように変化していて、どう引っ張っていけばいいのかを言語化できる人は極めて少ない。

そこをやるには、リスク社会論みたいなことを押さえておいて、ウルリッヒ・ベックがね、とかというのが、チラッと勉強できていたりすると、だからこうなんだという論理的根拠をリーダーに与えることができるわけです。

リーダーは論理的根拠はないです。方向性と感情があるだけだから。それをサポートして言語化するのがスピーチライターという仕事だと僕は思っていて、一生懸命やっています。

もちろんそれは言語だけじゃなくて、事業においても全く同じで、潮流を捉えて言語化する、潮流を捉えて仕組み化する、こういうことができる人がやっぱり僕は真のリーダーだろうなと思っていて、それを一生懸命サポートしています。

ということで、良い言葉ってなんだろうなんですが、結論は別にないんですが、癒しの言葉と発見の言葉と再構築の言葉、これを使ってある種社会をリードできる言葉、これが僕はいい言葉だと信じて頑張っています。

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